鹿児島&沖縄マングローブ探検

Vegetation

海水に浸かる不思議な木

〈マングローブの構成植物〉

日本のマングローブ林風景
― 熱帯原産 ―
日本産のマングローブ植物は5科7種あり希少な熱帯の絶滅危惧種が多く、種類により生活に適した生育地を選別!

塩分を含んだマングローブの黄色い葉
― 塩分処理 ―
過度な塩分を隔離する特定の葉は噛むと塩辛い味がし、濃縮すると黄色く色素が抜けて老化し枯れ葉となり体外除去!

砂浜で成育しているオヒルギの木
― 海流散布 ―
浸水する過酷な環境条件で子孫を残すために、親木で種子を発芽させてから潮流を利用して個体を運ばせる繁殖戦略!

水中から根を張る支柱根
― 根の役割 ―
地上に出る根は4種類あり、波風で倒木を防ぐための安定力強化や水没しても酸欠を回避させる呼吸機能が備わる!


Ecology

規則的な棲み分け

〈生態と適応能力〉

― 木の特徴 ―


鹿児島県と沖縄県にあるマングローブ主要植物は、全種が自然分布の北限となる。これらは常緑樹で塩分に耐えられる共通点があり、樹高は50cm~10m以上に及ぶ。平均寿命は約50年とされ樹齢100年~350年に達する古木も発見されている。




マングローブ植物の階層構造



― 生育環境 ―


熱帯・亜熱帯沿岸の海水と淡水が混ざる「汽水域:きすいいき」を好むため、海岸や川の下流など潮の干満影響を受ける場所に現れる。泥や砂地など柔らかい土壌に根づき、個体が長期的に繁殖していくとマングローブ林としての森林が形成される。




マングローブ環境の構成要素



― 植生構造 ―


マングローブ林を全体図で見ると「前面群落→中心群落→後背群落」の順番に海側から陸側まで3つのエリアに分かれ、潮の冠水頻度や海水濃度の違いで木の棲み分けが明確化する。内陸からは「半マングローブ」という仲間の植物群落に移り変わる。




マングローブ林の植生断面図



― 樹種比較 ―


一般的には塩分に強い「ヒルギダマシ」「マヤプシキ」「ヤエヤマヒルギ」が海側に生え、陸側では「メヒルギ」「オヒルギ」が段階的に出現する。これは区域ごとで塩分濃度が変動する理由から、木々が自らの性質に合わせて棲み分けしている現象である。




木の種類
耐塩能力
適応区域
高い:★★★★
前面群落
高い:★★★★
前面群落
高い:★★★☆
前面群落
普通:★★☆☆
中心群落
普通:★★☆☆
中心群落
低い:★☆☆☆
後背群落
低い:★☆☆☆
後背群落


Evolution

進化した器官構造

〈自然界の戦略を物語る〉

― 受粉方法と開花 ―

オヒルギの蜜を吸う昆虫マングローブにある花の図解

マングローブ植物の多くは性別がなく、同じ樹種同士の花にある「雄しべと雌しべ」が受粉して種子を作る両性花。例えばオヒルギは、花に物体が触れると瞬時に花粉を飛ばすため、花の蜜を吸いに来る鳥や昆虫が花粉を運ぶ媒介を促進している。


― 種は樹上で発芽 ―

水面を漂う胎生種子マングローブにある胎生種子の図解

一般的な植物は産卵と似た繁殖方法だが、ヒルギ科の植物は母樹につく果実から「胎生種子」と呼ばれる棒状の繁殖体を発芽させ茎の原型を形成。熟すと果実を突き破り落下し、根を張って活着するか水に浮くコルク質のため海流散布を行う。


― 自己防衛する葉 ―

マングローブにある葉の図解

紫外線や高温乾燥による水分蒸発や光合成に重要な気孔細胞を保護するため、葉の表面に「クチクラ層」という撥水性の膜があり光沢多肉質。過剰な塩分を代謝排出する「犠牲の葉」とも呼ばれ、ヒルギダマシは葉の裏に塩分を蒸散する塩類腺もある。


― 幹と枝にも秘策 ―

ヤエヤマヒルギの枝に伸びる根マングローブにある枝の図解

効率良く酸素を吸収するため、ヒルギ科の幹には「皮目:ひもく」という亀裂や粒状の空気の通り道ができる。ヤエヤマヒルギは枝から地面に垂れ下がる「気根:きこん」がスダレ状に発生し、軟弱な土壌でバランスを維持させる補助的役割を果たす。



Function

4種類の独特な根

〈海に特化した構造〉

― 膝根(しっこん) ―

オヒルギの膝根膝根についての構造図

人間のひざを曲げたような逆V字型に盛り上がる膝根(英名:Knee-Root/ニールート)はオヒルギに発達する。通気性の悪い土壌における酸欠回避策のため、地下から波打つように根が露出して内部の細胞壁では塩分濾過する事も可能である。


― 支柱根(しちゅうこん) ―

ヤエヤマヒルギの支柱根支柱根についての構造図

傘の骨組みを弓状に曲げたような支柱根(英名:Prop-Root/プロップルート)はヤエヤマヒルギに発達する。酸素供給のために根の内部は空洞化したスポンジ状の通気組織があるほか、細胞壁での塩分濾過や皮下にある葉緑素では光合成もする。


― 筍根(じゅんこん) ―

マヤプシキの筍根筍根についての構造図

タケノコのように地中奥深くから垂直突起して現れる筍根(英名:Pencil-Root/ペンシルルート)はマヤプシキとヒルギダマシに発達する。呼吸するため根が地上に現れてシュノーケルのような役目を果たし、皮下にある葉緑素でも光合成を行う。


― 板根(ばんこん) ―

メヒルギの板根板根についての構造図

幹から地面まで滑り台のように落ちる板根(英名:Butterss-Root/バットレスルート)はメヒルギに発達する。根の厚みはそれほど太くはないが、正三角形の放射した構造により高木も支えられる安定力があり細胞壁では塩分濾過も可能である。



Structure
主要樹種の一覧
〈樹木別のデータ〉

― 検索早見表 ―


地域一覧
分布植物 自生地点
鹿児島
1科1種
13カ所
種子島
1科1種
6カ所
屋久島
1科1種
1カ所
奄美大島
1科2種
14カ所
加計呂麻島
1科2種
4カ所
徳之島
1科1種
1カ所
伊是名島
1科2種
3カ所
沖縄本島
3科5種
51カ所
屋我地島
2科4種
2カ所
宮城島
1科3種
1カ所
久米島
1科3種
3カ所
南大東島
1科1種
4カ所
宮古島
2科4種
8カ所
伊良部島
2科4種
1カ所
石垣島
4科6種
32カ所
小浜島
3科5種
1カ所
西表島
5科7種
64カ所
由布島
4科6種
1カ所
内・外離島
4科6種
3カ所
与那国島
1科1種
1カ所


― 日本全体の分布 ―


鹿児島県から沖縄県に南下していくと気温の高さと比例してマングローブ樹種が増え、最北端の「鹿児島」と最南端の「西表島」では年間の平均気温差が約7℃もある。5科7種が同じ地点で確認できるのは西表島(大原川)のみに限られる。





日本全体のマングローブ分布図



GoogleMap〔日本全土版〕


自生地総数
全種生育地
最多優占種
〔2県39市町村〕
西表島/大原川
〔5科7種〕
オヒルギ
〔15島156カ所〕

― オヒルギ ―


ヒルギ科に属する常緑高木であり奄美大島以南の15島156カ所に分布する。幹の表面にデコボコした皮目があり、オクラ似の胎生種子が特徴的。陸側のマングローブでは樹高が10m以上に達することもあり、木の周囲には波状の膝根が発達する。



オヒルギの全体樹形と器官



オヒルギを詳しく見る


― メヒルギ ―


ヒルギ科に属する常緑木本であり鹿児島以南の18島150カ所に分布する。盆栽のように整った樹形と丸みを帯びた葉を持ち、小さな板根を発達させるほか胎生種子も実らせる。寒さに対して比較的強く天草諸島や伊豆半島でも植栽されている。



メヒルギの全体樹形と器官



メヒルギを詳しく見る


― ヤエヤマヒルギ ―


ヒルギ科に属する常緑高木で沖縄本島以南の13島134カ所に分布する。マングローブ特有の風格が現れている代表的な樹種であり、支柱根を四方八方に発達させる。葉の先端が尖っておりアスパラガスに似た細長い胎生種子が見受けられる。


ヤエヤマヒルギの全体樹形と器官



ヤエヤマヒルギを詳しく見る


― マヤプシキ ―


ハマザクロ科に属する常緑高木であり石垣島以南の4島22カ所に分布する。ブラシ状の純白な花を咲かせ成熟すると渋柿に似た果実を実らせる。多肉質の葉を持つほか細いタケノコの形をした筍根が地中から針山のように突き出す特徴もある。


マヤプシキの全体樹形と器官



マヤプシキを詳しく見る


― ヒルギダマシ ―


キツネノマゴ科に属する常緑低木であり沖縄本島以南の9島49カ所に分布する。海岸の最前線で波しぶきを受けながらも高い塩分濃度に耐えて生きる低木である。満潮時には木全体が水に浸かり、地上には割り箸ほどの小さな筍根が発達する。


ヒルギダマシの全体樹形と器官



ヒルギダマシを詳しく見る


― ヒルギモドキ ―


シクンシ科に属する常緑木本であり沖縄本島以南の5島21カ所に分布する。マングローブ後背群落にある砂地での生育が一般的であり、稀に匍匐根(ほうふくこん)を発達させる。葉は多肉質で水分を多く保持し、小判のような形をしている。


ヒルギモドキの全体樹形と器官



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― ニッパヤシ ―


ヤシ科に属する常緑低木であり西表島以南の2島3カ所に分布する。日本では限られた地点でしか自生しない幻のヤシ。沿岸の泥質湿地に生えており地中から幹のような太い葉柄(ようへい)を形成させ、羽状の葉を広げる特性を持っている。


ニッパヤシの全体樹形と器官



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― 半マングローブ植物 ―


満潮時に海水が少し入る「バックマングローブ域」にある副次的な塩生植物。種類は、①サキシマスオウノキ、②サガリバナ、③ゴバンノアシ、④オオハマボウ、⑤シマシラキ、⑥ハマジンチョウ、⑦ミズガンピ、⑧アダン、⑨ミミモチシダ、⑩イボタクサギ。
10種類の半マングローブ植物


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